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◎2015.5.20(Wed) 天気:曇り時々晴れ 気温:18~24℃
◎コース:07:50国民宿舎裏妙義-09:35籠沢のコル-10:12丁須の頭10:38-11:20赤岩-12:34風穴尾根の頭-12:57三方境-13:13水場-13:49小尾根上馬頭観音-14:16三方境登山口-14:23国民宿舎裏妙義(行動時間:6時間33分)
◎標高差:約620m
最高点の標高: 1060 m
最低点の標高: 457 m
累積標高(上り): 1240 m
累積標高(下り): -1234 m
M浦氏とは、夏に”ある計画”を約束している。
その、ある計画でハードルが高いのは、死を意識するような高所の恐怖感が出てくる。
死を意識する恐怖感が生じてくるような計画を、安全に、かつ確実に遂行する為には、道具の効果はかかせない。
そこで今回は、M浦氏と共に裏妙義へ向った。
裏妙義は、”ある計画”の為の試験場?練習場?みたいなものだ。
道具の使い方や、道具の効果・必要性、本当の高所の恐怖感、今後の課題・必要な装備等々…。
これらの事柄について裏妙義で身をもって体験してもらい、一気に理解してもらおう、というのが私の狙いだ。
時計の気温計で19℃。
ぼちぼち準備して出発。
07:50国民宿舎裏妙義
今日の群馬県の天気予報は、晴れ時々曇り、と登山日和が期待できる予報だった。
しかし、行きがけの関越道では、時折、小雨がパラついていた。
雨は裏妙義でも降っていた様子で、コンクリート舗装された林道は、雨の跡を染みつけていた。
今回の登山のテーマ、とでもいうべきクライミングのクライマックスは”丁須の頭”で迎える。
”濡れていたら登れないな…”と思いつつ、登山口へ向った。
出発前の準備で、M浦氏に必要な装備を施した。
昨年に表妙義を縦走した時同様、今回も、難所の通過はランヤード式で切り抜ける予定だ。
表妙義の際に作成したランヤードは単純な作りだったが、その後、私も経験を重ね、今回のランヤードは少々巧妙なものとなった。
表妙義同様、裏妙義も基本、破線ルートが続く。
私達は今、丁須の頭へ直行、ということで、籠沢コースと呼ばれる道を歩いている。
今のところ傾斜は緩く、誰も居ない、暗い籠沢の沢スジが続く癒し系です。
沢スジを詰めていくと、徐々に傾斜は増す。
更に、デカい岩が沢スジを塞ぎ、岩の合間を縫うようにして進んだ。
ここは、山と高原地図で「大岩に二段8mの鎖」と記載されている場所。
このような場所で、カラビナ使用時の注意点やランヤード
による確保方法等、M浦氏に伝授しつつ進んだ。
朝、曇りがちだった天気は、時折、陽射しが射し込むようになった。
籠沢は、ようやく水の姿を消し、この沢スジのゴールが近づいてきていることを予感させられる。
更に、空がデカくなってきて、自分が今、稜線近くにいることを確信する。
前掲画像の場所より、ちょっと進んだら鎖が垂れていた。
ここは、山と高原地図に「数連の長い鎖」と記載されている場所とすぐ気付いた。
M浦氏に、岩を登る時の手の使い方、足の置き方等、話しをしつつ進んだ。
↓
09:35籠沢のコル
ようやく稜線に這い上がった。
このポイントは”コル”とされているようにピークとピークの鞍部に位置する。
一方のピークは丁須の頭なのですが、そのピークは切り立ち、私達を阻むようにそびえ立っていた。
”丁”の字が見えた!
丁須の頭は、幸い濡れてはいなかった。
ザックを登山道脇にデポし、目の前の鎖に取り付いた。
丁須の頭から鎖が垂れており、鎖沿いで使えそうなホールドがないか?観察しつつ、ジリジリと近づく。
丁の根元に着き、鎖のアンカーにセルフビレイを取った。
ビレイを取りつつ、ちょっとでも楽なホールド、ステップが無いか?更に鎖の奥まで確認した。
鎖の取付き辺りが軽くハングしており、この鎖沿いに岩に取り付くには勇気がいるからだ。
しかし、楽なステップ、ホールドは見つからない。
このハングを一番楽に、安全にクリアするには、鎖を頼りに腕力で這い上がるしかない。
私は、ランヤードにぶら下がっているカラビナを、クサリの一番高いところにセットして岩に取り付いた。
ランヤードには、カラビナが二枚かかっている。
鎖を頼りに、腕力でハングを乗り越え、足元が安定した場所で、もう一方のカラビナを鎖にかける。
ここで最初のカラビナを外し、更に上方の鎖に、外したカラビナを掛けかえる。
で、下になったカラビナを外し、登る。
ランヤードの長さがいっぱいになる前に、足元が安定した場所で、再び、カラビナを掛けかえる。
これの繰り返しで登った。
で、カラビナを掛けかえる必要がない場所まで這い上がり、鎖のアンカーにセルフビレイをとった。
↓
10:12丁須の頭10:38
時計の気温計で19℃。
”頭”の先っぽは、狭く、平地はない。
不安定な場所だが、ほぼ無風なのが救いだ。
流石に…、言いようのない、恐怖感がこみ上げてくる。
しかし、私が座り込んでいるこの場所に居続けることはできない。
なぜなら、これから登ってくるM浦氏の為に、場所を空けなければならないからだ。
恐る恐る、腰を上げた。
中腰になるのが精いっぱいだ。
セルフをとっているので落ちることはない、と解っていても、落ちる自分をイメージしてしまう。
ナマケモノのように、そろそろと慎重に体を動かし、M浦氏が座るべき場所を確保した。
やがて、M浦氏も這い上がってきた。
M浦氏もセルフを取り、私はポケットからタバコを取り出した。
この狭いピークで、二人してタバコを吸った。
タバコを吸っていると、私は次第に緊張の糸がほぐれてきた。
この高い場所に慣れたか?タバコを吸い終わる頃には、先ほど感じたような、言いようのない恐怖感はスゥーっと引いていた。
平静を取り戻した私は、ここでようやく、丁須の頭を登った満足感に浸ることができた。
余裕ができたつもりだったが、このピーク上から撮影した風景写真はこの一枚だけだった…。
天気はよくない。
ただ撮っただけの平凡な一枚だ。
写真を撮る余裕がなかった、というよりは、丁須の頭に圧倒され写真のことを忘れていた、ということにしておくか…。
そんなことで、タバコを吸い終わり、お互い、写真を撮りあった後、降ることにした。
当然、降りもランヤードで確保しつつ降った。
ところで、一般的に登るよりも降る方が難しい。
特に、直壁に近いここの降りは、部分的にハングしており、足の置き所の確認がしずらい。
しかし、ランヤードで確保されていれば、ランヤードに体重を預け、ハーネスにぶら下がれば足元の確認は容易だし、確認ができれば、安全に降ることが可能になる。
さて、ここより先は、ちょっとだけM浦氏の為の記載ということで。
私がハーネスに接続させていたのは、メトリウスの「PAS22」です。
ダイニ-マで作られたテープをリング状に縫製し、鎖のように繋ぎあわせたものです。
一般縦走用として見た場合のPASのメリットは、カラビナをかけるリングを変えることで、長さの調節が容易にできることにあります。
各リングはUIAA基準で言う”スリング”の基準を満たしており、一般的なスリングによるランヤード作成時にできる結び目の強度低下の心配もありません。
更に、先端のリングと手元のリングにそれぞれカラビナをかければ、PAS一本でランヤードの代わりにも応用可能です。
より軽量化された「アルパインPAS」という商品がありますが、PAS22と比較すると、軽量化された分強度が低くなり、UIAA基準でいう「スリング」ではありませんので、PAS22を選択した方が無難です。
使用していた安全環付のカラビナは、ペツル「スピリット スクリューロック」です。
環の閉め忘れ防止に、赤いマーカーが施されているのが気に入っています。
セルフビレイ用のカラビナは、環付の変形D型が基本です。
*カラビナの種類参考:カラビナの選択方法
環は、私はスクリューロックを使用していますが、慣れないうちは環の閉め忘れがないオートロックの方が安全、安心かもしれません。
それぞれのロック方式で、メリットデメリットがありますが、スクリューロックのメリットとしては、ロックを使用しなければ環無しのように使用することができる、ということが挙げられます。
例えば、ランヤードとして使う場合はロックを使用せず、セルフを取る時はロックが使える、という具合で使い勝手がいいです。
そうは言っても、この辺りはベストな選択というのは難しく、ベターな選択しかできないので、自分の性格とかお好みで良いかと思います。
PASに付けていた、もう一つの環無しのカラビナは、DMM「シールド」です。
ワイヤーゲートで軽量化され、更にワイヤーゲートなのにキーロック採用というところが気に入って使用しています。
さて、御託はこの辺りでお終いということで…。
ここから見ても四方、スッパリ切れ落ちているが、空の向こう側は更に切れ落ちている。
とは言うものの、向う側がどれ位切れ落ちているのか知らない。
PASで確保されていても、向う側をのぞき込む勇気は無かった…。
最奥で霞がちになっているピラミッド型のピークが裏妙義最高峰の「谷急山」と思う。
あそこまで行けるかな?
行けるなら行ってみたいが、今日はあまりこだわっていない。
今日の目的は、丁須の頭だ。
丁須の頭を登ってしまった今、一仕事終わった気分になってしまっている。
距離は長いが、画像の如く、ステップ、ホールドに困らない。
↓
11:20赤岩
主稜線上には針?棒?のようなピークが連なっており、そんなピークを一々踏んでいたら、命がいくらあっても足りない。
登山道は、それらピークを避け、巻き道になっていた。
色々なところに鎖が張られていた。
”?”
岩壁のトラバースがずっと続いていたが、いつの間にか稜線に復帰したようだ…。
↓
12:34風穴尾根の頭
ここが”風穴尾根の頭”と気付かず、一旦、通り過ぎてしまった。
ちょっと進んで気付いた。
大して進んでいなかったので戻ってみたら、道標は朽ちて下に落ちていた。
判読不能。
丁須の頭は、こんなに小さくなってしまった。
丁須の頭からここまで、岩峰が連なり、その連なりを避けて今まで岩壁のトラバースが続いていた。
↓
12:57三方境
ここから裏妙義最高峰である谷急山へ向った場合、コースタイムではピストンで3時間以上要する。
既に13:00だ。
三方境に戻ってこれるのは16:00になってしまう。
天気予報では、夕方所により雷雨、と予報されていた。
無理しても仕方ない。
ちなみに、下山路は巡視道と呼ばれている。
この道は、山と高原地図では実線表示で、危険なところはなにもない。
↓
13:13水場
細流が流れていた。
↓
13:49小尾根上馬頭観音
ここで、最後の休憩をとった。
ここでの休憩が、後ほど重要な意味を持つことになるとは…。
↓
14:16三方境登山口
↓
14:23国民宿舎裏妙義
無事、帰還。
時計の気温計で24℃。
車のドアを開け、荷物を片す。
M浦氏が何か言った。
ミミズって言ってたかな?
まあ、いい。
M浦氏は、何か異常に気付いた。
私は、その異常を確認する為にM浦氏に近づいた。
…。
ヒルだよ…。
M浦氏の足をヒルが這っていた。
ヒルを初めて見るM浦氏は、この生物を何者だか分かっていなかった。
ということは…?
慌てて、自分の足元をチェックした。
”居た!”
ウールソックスの生地に頭を突っ込み、中に潜り込もうとしていた。
以前、ヒルの被害者で足の指の股を食われているのを見たことがある。
その時は、どうやって足の指の股まで辿り着いたんだろう?と思っていたが、こいつは、ウールを貫通する能力も持っているらしい。
ヒルをやっつける薬物は何も持っていない。
まだ私の肉に食らいついていなかったので、デコピンで吹っ飛ばしてやった。
後、ライターで焼却処分。
結局、M浦氏には二匹。
私には一匹取付いていた。
共に吸血被害はない。
何時、我らに取り付いたんだろう。
思い当たる場所は、一カ所しかない。
最後の休憩場所である”小尾根上馬頭観音”。
馬頭観音では、二人とも座り込んだ。
そこで休憩したのは、わずか30分前のことだ。
まだ30分しか経過していなかったから吸血されずに済んだ、ということと思う。
その前に座り込んだのは風穴尾根の頭で、それは二時間も前のことだ。
風穴尾根の頭でヒルに取り付かれていたら、とっくに吸血されていただろう。
この後は、国民宿舎裏妙義の風呂に浸かった。
素っ裸になって、まだ、ヒルが取付いていないか確認した。
さてさて。
私も、まだまだ精進が足りない。
M浦氏とジム通いの話しなどしながら帰路についた。