日本雪崩ネットワークの講習に参加することになった。
その案内を拝見すると、必要装備に「スノーシュー」又は「ワカン」とあった。
別の講習を受講する予定もあり、そちらの案内では「スノーシュー」が必要装備とされていた。
道具好きの私は、面倒だったので両方買うことにした。
今回はスノーシューのご紹介、ということで。
まずは、このスノーシューを購入することになった経緯から。
そもそも、私は「スノーシュー」という道具に消極的だった。
その最大の理由は”重い”から。
今回購入した、TSL「エスケイプイージー」であれば、約900g片足に余計にぶら下げて歩くことになる。
使用しない時は、約2kgの重量を余計に背負って歩くことになる。
スノーシューと似た用途でワカンがあるが、ワカンで事足りるのであれば、圧倒的に軽いワカンを持っていれば十分ではないかと、考えていた。
そんなことで、スノーシューの購入を決めたものの、スノーシューに対する知識はほとんど無かった。
ショップに行き、事情を話し、スノーシューの選択は店員さんの経験に任せた。
ショップの店員さんに選択を任せる、ということは、こちらもそれなりに覚悟しなければならない。
なぜなら、店員さん全員が全員、玄人、というわけではないからだ。
ショップによっては、雇用形態による事情があったりする。
正社員と歩合給の社員が混在している店もある。
私の経験上、歩合給と思われる店員さんは要注意だ。
”売ってなんぼ”の店員さんは、やはり、売りたがる。
それが先に立ち、適当なことを言う可能性がある。
それが原因で、過去、何度か痛い目に遭っている。
また、マニュアル式で言ってくる店員さんもいる。
経験、商品知識に乏しい店員さんをショップで使う為には、マニュアル式で行くしかないだろう。
結果、こういう店員さんと話しをしてもマニュアル以上のものは出てこない。
経験に基づいた提案、というものはない。
私の店員さんの好みは、”話しずらい”店員さんだ。
売り子ではなく、店の責任者、といった感じの人だ。
又は、武骨で、にこやかでなく、いかにも”山屋”といった感じの人だ。
こういった方は、やはり”餅は餅屋”ではないが、経験豊富、商品知識豊富で、話しの端々までうなずかされるものがある。
ただし、登山用品のショップは独特の雰囲気があり、私程度の人間が道具の質問なんかしていいのか?とか、質問しなければ買えないなら買うな、みたいなところがあり、ちょっと敷居が高く、結果、上に挙げたような店員さんには話づらい。
しかし、勇気を出すのだ。
店の責任者、といった感じの方であれば、売り子ではないので売ることにがっついてこない。
こちらのレベルに合わせて話しをしてくれる。
例え話では、ちょっとグローブを手に当てただけ、シューズを履いただけで、”ちょっと大きいんじゃないですか?”とか、”ちょっと小さいんじゃないですか?”と、すぐ見抜いて言ってくる。
これは、店員さんにとっては、リスクが生じる会話だ。
もし、私に合うサイズが在庫切れであれば、私は買わない。
なので、こういう風に言ってくれる店員さんは信用できるし、ちょっと見ただけで見抜いてくる辺りは、やはり、玄人ならではだ。
これが歩合給の店員さんであれば、こうはいかない。
それどころか、”お客様が決めることですから”と、サイズが合わないことを、さも、大した問題ではない雰囲気で言ってきたりする。
そんな、玄人さんの店員さんと話しをした時は、店が混んでいない日、時間帯、を狙って行く。
まあ、平日の飯時を外した日中、のことだ。
そうすれば捕まえやすいし、店が空いていればこちらも躊躇することもなく長話ができる。
ショップの店員さんに選択を任せる、ということは、こんな、店の裏事情みたいなものを理解して話しをする必要がある。
誰にでも相談していいわけではない。
私は、上記の方法を取るようにしてから買い物に失敗することは無くなったし、ネットで訳の分からんものを買うこともなくなった。
脱線失礼しました…。
さて、本題。
スノーシューを購入するにあたり、冒頭の通り、私の最大の懸念は”重い”ということだった。
そんなことで、MSRの22インチシリーズであれば軽量で、最も気になっていたスノーシューだった。
MSRなら、フローテーションテイルで、浮力の調節もできる。
しかし、MSRは高価なんだよな~…。
素直に、”スノーシューを履いたことがないんです”と事情を話し、合わせて予定山行場所をお伝えすると、出てきたスノーシューが、TSL「エスケイプイージー」だった、という訳です。
MSRも、当然、店頭に置いてあったが、話しにも出てこなかった。
なぜ、TSLなのか?
それは、各スノーシューメーカー中、唯一、踵を固定できるから。
スノーシューは構造上、踵はフリーになっており、つま先側に設けられたヒンジを軸に、ブラブラとテール部分を雪面に引きづりながら歩行することになる。
つまり、歩行時のスノーシューの動きは、足を上げることにより、
- 爪先側は上に上がり、雪面を乗り越えようとする。
- 踵側は下に下がり、テールの一部は雪面と接したままで、スノーシュー本体の重量分散につながる。
となる。
これは、平地及び、登り斜面では有効ですが、降り斜面では…。
- 爪先側は、大きく中に浮く。
- 踵側は終始、ブラブラと雪面に接したままで、足を降ろした際、思わぬ所にテールが引っかかり、転倒の原因となる。
となり、つまり危険だ、ということです。
これを回避する為には、スノーシューの踵を固定するのが有効ですが、なぜか?MSRもアトラスも踵を固定する機能はなく、唯一、TSLで採用されているのみだ、という訳です。
こういう話しを聞きたかった…。
なにしろ、スノーシューを使ったこともなく、初めてスノーシューを購入しようというのだから、踵が固定できることの重要性など、知る由もない。
今日も”話しずらい店員さん”と話しができてよかった…。
何の迷いもなく、出てきたスノーシューを買った。
私が選択したのは、カラーだけだった。
問題の踵部分の構造は、このようになっている。
前掲画像のレバー(ヒールブロッカー)でもって、踵の固定を操作する。
他メーカーのスノーシューでは、スノーシューと靴底面が接するのは、靴の踵辺りまでだが、TSLでは一種、下駄(ヒールプレート)の上に靴を乗せるようになる。
たったこれだけの仕組みだが、この下駄のお蔭で、踵を固定することが可能です。
踵後部には、ヒールリフターが備わっている。
この黒い、プラのパーツを倒すとこうなる。
で、このプラのパーツ上に下駄がくるようになる。
登坂を楽にする為の仕組みだ。
背面はこうなっている。
”滑り止め”の機能は、6本の突起と爪先に配された爪。
ちなみに、この6本の突起は、表面からネジ止めされている。
全ての突起を取り外し、このようにパーツを換装することも可能だ。
このパーツは、「グリップクロー」と言う商品名で別売されている。
また、アイゼン状のパーツの取り付けも可能だ。
やはり、このパーツは「アイゼン4本爪」という商品名で別売されている。
私が購入した「エスケイプイージー」は、緩斜面用だ。
その緩斜面用のスノーシューに別売りパーツを付けて、グレードアップできる余地が残されているのは嬉しいところだ。
他、外観上の特徴としては、このテールに設けられた突起がある。
この突起は、雪に刺さりやすい形状となっており、登り時において、滑り止めの役割を担っていると思われます。
重量確認。
875g/片足。
珍しく、カタログデータより軽い。
収納ケース付。
キャリア想定①
キャリア想定②
キャリア想定③
TSLの唯一の欠点か?ザック固定時の収納性能はあまり良くない。
ガッシリとしたバインディングが邪魔をし、上手く重なり合わない。
実際に使ってみた
私が購入した「エスケイプイージー」のサイズは、”325”とのことで、カタログデータ上、その適応総重量は50~120kgとされている。
私の体重は、約70kg。
当日のザック重量は5kgほど。
その他、シューズ、トレッキングポール、衣服等、見についている重量は5kgほど、といったところか。
結果、総重量約80kgで、”適応総重量”の概ね中間値、といったところだ。
当日の積雪状況は、積雪1mほどの乾雪、踏み固められていないところでツボ足で歩くと、膝上まで潜る、という感じだった。
そんな状況での浮力。
浮いてくれた。
それなりに沈んでいるが、足を上げればスノーシューのプレートは、つま先側が雪を乗り越えるように浮き上がる。
結果、前進するのにストレスはなかった。
それに対して、風で雪が吹き飛ばされてしまうような吹曝しで、地表の一部が露出しているような場所での使用には向かない。
滑り止めのメインは、スノーシュー背面に設けられた6本の突起のみだったので、急斜面が登れるか不安だったが、意外に登れた。
これは、外観上の特徴でもある、プレートに開いている”穴”が一役かっている。
この穴は、軽量化の為の肉抜きか、と思っていたが、この穴の役割はもう一つあった。
ガッシリと雪と噛み合う。
これのお蔭で摩擦抵抗が上がり、滑りにくくなるのと同時に、足を上げればプレート上の雪は下に落ち軽くなる、という、単純ですが、優れものでした。
取扱説明書より抜粋
当社(TSL)のスノーシューは、安全な場所でのレジャーや一般的な日常生活の活動範囲内でご利用いただくために作られており、登山用には適していません。本使用規範に応じた適切な使用が行われなかった場合、TSLはいなかる責任も負いません。
カタログデータ(325)
柔軟性のある3Dフレームに、よりシンプルに設計されたエスケイプビンディングを使用したトレッキングモデルです。イージーアップヒールリフターが装着されている為、起伏が多い斜面で有効に使えます。
【カラー】CRT(クリスタル)TNG(タンゴ)
【全長】595mm
【幅】220mm
【重量】1810g(ペア)
【適応総重量】50~120kg
【ブーツサイズ】35~47(EU)
【価格】24000円(税別)(*TSL「325 エスケイプイージー」の最新相場はこちら)